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名古屋家庭裁判所 昭和45年(少)3172号 決定

少年 N・H(昭三〇・一〇・一六生)

主文

少年を名古屋市児童相談所長に送致する。

少年に対して、通算九〇日を限度として、その行動の自由を制限する強制的措置をとることができる。

理由

一  名古屋市児童相談所長の本件送致の理由の要旨は、「少年は、収容されている愛知学園内で他の児童に対し暴力をふるい、或いは同学園を無断で抜け出して近隣の民家や学校から金品を盗むなどの非行が絶えなかつたところ、昭和四五年七月一八日には他の児童を誘つて逃走し、原動機付自転車を盗つて岐阜県大垣署で保護される事件を起こすに至つたもので、この際再逃走、再非行を予防し、もつて教護の効果をより効果的に行なうため、一八〇日程度の強制的措置を要する。」というにある。

二  当審判廷における少年の供述、本件記録および家庭裁判所調査官作成の少年調査票によれば、つぎの事実が認められる。即ち、少年は昭和四五年二月一九日入園後最初はおとなしくしていたが、約一ヶ月近く経つて、他の児童がその親から先生に渡すように言われた金を持つてその児童とともに無断外出、店で物を買つたのを初めとして、その後これと類似の面会人から金品を他の児童に抜きとらせ、無断外出して買物にいく事件、或いは他の弱い児童を殴るなどの暴力事件、逃走用に近隣から自転車を盗み或いは倉庫を破つて衣服を予め用意しておくなどの事件がかなりの回数重ねられていたこと。そして、ついに同年七月一八日には、他の児童二名を誘つて学園を逃走し、原動機付自転車を各人一台あて盗み名神高速道路を進行中大垣署員に保護されたこと、この間に、草履、現金などの窃盗の非行が重ねられたこと。

三  少年の家庭は、実母は昭和四四年子宮癌で死亡し、翌年実父の妾であつた継母が迎えられたが全く少年との間の愛情の交流はなく、実父は仕事の関係で余り少年と触れ合う機会がないうえに、子供に対する関心は全くなく放任的であり、兄姉らも各素行が悪く、少年に対して兄弟としての愛情よりむしろ性行為を教えたりして弊害のある存在であつた。従つて少年は家庭的には全く見放された恵まれない環境、むしろ、冷たい暗い環境のなかで育ち、結果として、自己中心的、短気な性格を有しており、知能的にむしろ恵まれていたため、いんけんで、狡猾な面を、さらに身体的に恵まれていたことから、すぐ暴力をふるう組暴な面も有するにいたり、総じて極度にゆがめられたかたよりの大きな性格を有しているもので、長期にわたるこの人格形成過程をふりかえれば、その矯正もかなりの困難が予想されるものである。

四  以上を考えるに、本件少年についてはまだ義務教育も終了していないことでもあり、これまでの園内での問題行動も上述少年のゆがめられた性格が原因となつている点を考慮すれば、今後の矯正教育の目的を達するには相当の困難が予想されるので、まず暴力行為、無断外出を防ぎ、ひいては右目的をより効果的なものにするために、少年に対し強制的措置をとることもやむをえないものといわなければならず、その限度は通算して九〇日をもつて相当と考える。

五  よつて、本件少年を名古屋市児童相談所長に送致し、通算して九〇日を限度として行動の自由を制限する強制的措置をとることを認め、少年法二三条一項、一八条二項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 川上孝子)

参考

児童相談所からの事件送致書記載の審判に付すべき理由

少年は、ぐ犯・強制わいせつ・窃盗等の行為があつて名古屋家庭裁判所で審判された結果保護処分=教護院送致となり、昭和四五年二月一七日から教護院愛知学園に籍をおき、約五ヵ月に亘つて教護を受けて今日に至つている。

しかし、この間に同寮他児に暴方を、それも震るえあがらせるほどの暴力をはたらきそれによつて寮内全児童を抑圧する。また夜間に(消灯後)少年が主謀となつて学園を抜け出し、近隣の民家や中学校から金品を盗む等の非行が絶えず、しかも充分な反省態度がみられず、教護困難を来たしていた。

その矢先、昭和四五年七月一八日(土)午後四時三〇分、他児二名を誘って学園を無断外出、原動機付自転車を計三両、その他現金、靴等を盗み、岐阜県大垣署管内で保護されるという事件が起きた。

これは、これまでの非行で最大のものであり、また向後拡大する可能性をはらんでいると思量される。

この際、再逃走(再非行)を予防し、より強力な教護を必要とする。この見地から国立武蔵野学院への送致を前提として、行動の自由を制限し得る強制的措置の可否について貴所の審判を仰ぐものである。

注 昭和四五年七月一八日~七月一九日施設無断外出、経過概略〈1〉四五・七・一八四・三〇PM同寮○中、○西の両名を誘い、山中を経、明治村に向い、同村内貸ボート屋にて原動機付自転車二両窃取〈2〉夜、成田山に足をのばし賽銭箱から三〇〇円を窃る。パトロールカーに見つかり、ここで○西は同車に保護される。〈3〉四五・七・一九二・○○AM同近辺でもう一台原動機付自転車を盗む〈4〉その他、一九日午後三時三〇分、盗んだ原動機付自転車で名神高速道路を走行中、大垣署員に保護されるまでに靴一足、スクーターのナンバープレート一枚、つつかけ草履一足、○○市内のタバコ屋から現金三、八〇〇円を盗むなどの非行を重ねた。◎なお今回の無断外出等は一週間ぐらい前から計画していたと本人は言つている。

――以上岐阜県警大垣署からの電話連絡、愛知学園からの報告による。――

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